「アルムナイ採用」が、新たな採用手法として注目を集めています。
しかし、その華やかなメリットの裏には、見過ごせないデメリットやリスクが潜んでいることをご存知でしょうか。
本記事では、アルムナイ採用の導入を検討している企業の担当者様に向けて、具体的なデメリット7選と、その対策を徹底解説します。
本記事を読んで、アルムナイ採用の光と影を理解し、自社にとって最適な判断をしていきましょう。
INDEX
アルムナイ採用とは?
アルムナイ採用とは、企業の離職者や退職者(アルムナイ)を、再び雇用する採用手法のことです。
「出戻り採用」や「再雇用制度」と似ていますが、アルムナイ採用はより戦略的な意味合いが強いのが特徴です。
具体的には、退職後も元従業員と良好な関係を維持するための「アルムナイ・ネットワーク」を構築し、そのネットワークを通じて再雇用へと繋げます。
単に欠員を補充するだけでなく、アルムナイが他社で得た新たな知識や経験を自社に還元してもらうことを期待する、攻めの採用戦略と言えるでしょう。
アルムナイ採用のデメリット7選
アルムナイ採用は多くのメリットがある一方で、慎重に検討すべきデメリットも存在します。
導入後に「こんなはずではなかった」と後悔しないためにも、7つの具体的なリスクを把握しておきましょう。
待遇の逆転現象が既存社員の不満を招く
アルムナイ社員の給与や役職が、現職の社員よりも高く設定されることで、社内に不公平感が生じるケースがあります。
アルムナイが他社で得たスキルや経験を評価した結果であっても、長年会社に貢献してきた既存社員から見れば、「なぜ一度辞めた人が自分より良い待遇なのか」という不満や嫉妬の温床になりかねません。
特に、同年代や同等の業務内容の社員間で待遇に差が生まれると、軋轢はさらに大きくなるでしょう。
再雇用の条件設定が曖昧でトラブル発生
再雇用時のポジション、給与、業務内容などの条件設定が曖昧なまま採用を進めてしまうと、入社後に「聞いていた話と違う」といったトラブルに発展するリスクがあります。
アルムナイ側は、過去の在籍経験から「以前と同じような条件だろう」と期待しがちです。
しかし、企業側はその後の業績変化や組織改編により、必ずしも過去と同じ条件を提示できるとは限りません。
この認識のズレが、再入社後の早期離職や、会社への不信感につながる可能性があります。
既存社員のモチベーション低下とエンゲージメント悪化
「辞めても、いつでも戻ってこられる」という前例ができてしまうと、既存社員の勤続意欲やエンゲージメントを低下させる恐れがあります。
困難なプロジェクトや人間関係に直面した際に、「嫌なら辞めて、また戻ってくればいい」という安易な選択肢が生まれ、組織全体の規律が緩んでしまう可能性があります。
真面目に会社に貢献し続けている社員が、アルムナイの存在によって相対的に評価されていないと感じ、モチベーションを失うことは避けなければなりません。
離職ハードルが下がり出戻りループが起きやすい
アルムナイ採用制度が「キャリアの避難場所」として認識されると、短期的な離職と再入社を繰り返す出戻りループが発生しやすくなります。
このような社員は、困難な状況に直面するたびに離職を選択する傾向があり、腰を据えて長期的なキャリア形成をしようという意識が低い場合があります。
結果として、採用と教育のコストが繰り返し発生し、組織の安定性を損なうことにも繋がりかねません。
スキルギャップ発生:前職時代の経験が現行業務に合致しない
アルムナイが在籍していた頃の業務プロセスや社内システムが、再入社時には大きく変化しており、過去の経験が通用しない「スキルギャップ」が生じることがあります。
企業は日々変化・成長しており、数年も経てば業務の進め方や使用ツールは一新されていることも珍しくありません。
即戦力として期待していたアルムナイが、変化に適応できず、結果的に新人同様の教育が必要になるケースも想定しておく必要があります。
情報漏洩リスクと競合流出の危険性
アルムナイが競合他社で勤務していた場合、その企業で得た機密情報やノウハウを、意図せず持ち込んでしまうリスクが伴います。
また、その逆も然りです。
アルムナイ採用を繰り返す中で、自社の重要な情報が外部に流出しやすい環境が作られてしまう危険性も否定できません。
特に、技術開発や顧客情報など、企業の競争力に直結する情報を取り扱う部署では、細心の注意が必要です。
アルムナイネットワーク維持コストの増大
アルムナイとの良好な関係を維持し、採用に繋げるためには、継続的なコストと労力がかかります。
例えば、アルムナイ専用のプラットフォーム(SNSやツール)の導入・運用費、定期的な交流イベントの開催費用、情報発信のためのコンテンツ作成費用などです。
これらの投資が必ずしも採用成果に結びつくとは限らず、費用対効果が見合わない可能性も十分に考えられます。
アルムナイ採用のデメリットを最小化する方法
数々のデメリットを乗り越え、アルムナイ採用を成功させるためには、事前の対策が不可欠です。
ここでは、デメリットを最小化するための具体的な方法を解説します。
明確な再雇用ルールの策定と周知
待遇の逆転現象や条件のミスマッチを防ぐため、「どのような人材を」「どのような条件で」再雇用するのか、明確なルールを策定しましょう。
役職、給与テーブル、評価基準などを具体的に定め、そのルールを既存社員にも公開することで、透明性と公平性を担保できます。
既存社員への十分な説明とケア
なぜアルムナイ採用を行うのか、その目的と会社にもたらすメリットを、既存社員に丁寧に説明することが重要です。
アルムナイの活躍だけでなく、既存社員の貢献もしっかりと評価し、称賛する文化を醸成することで、不公平感を和らげ、全体のモチベーションを維持できます。
アルムナイとの定期的なコミュニケーション
退職後も定期的に連絡を取り合い、会社の最新情報やビジョンを共有することで、再入社時のスキルギャップやカルチャーギャップを最小限に抑えられます。
また、良好な関係を築くことで、アルムナイが自社の「応援団」となり、ポジティブな口コミを広げてくれる効果も期待できます。
戦略的なアルムナイ・ネットワークの設計
やみくもにネットワークを維持するのではなく、「どのような人材に戻ってきてほしいか」というターゲットを明確にし、その層に響く情報発信やイベントを企画しましょう。
コストをかける部分とそうでない部分にメリハリをつけ、費用対効果を意識した運用を心がけることが成功の鍵です。
秘密保持契約の徹底
情報漏洩リスクに備え、再雇用時には改めて秘密保持契約を締結し、コンプライアンス研修を実施するなど、情報管理の重要性を徹底させましょう。
特に、競合他社からのアルムナイを受け入れる際は、前職の情報を不正に利用しないよう、明確なガイドラインを示す必要があります。
アルムナイ採用のメリット5選
デメリットを理解した上で、アルムナイ採用がもたらす大きなメリットにも目を向けてみましょう。
これらを最大化することが、制度成功の鍵となります。
即戦力確保による育成コスト削減
アルムナイは、自社の企業文化や事業内容、業務プロセスを既に理解しているため、入社後のオンボーディング期間が大幅に短縮され、即戦力としての活躍が期待できます。
新人研修やOJTにかかる時間とコストを大幅に削減できる点は、企業にとって非常に大きなメリットです。
カルチャーフィットが高く定着率が向上
一度社風を経験しているアルムナイは、入社後のミスマッチが起こりにくく、高い定着率が見込めます。
採用活動において最も難しいとされる「カルチャーフィット」の問題をクリアできているため、早期離職のリスクを低減し、安定した組織運営に貢献します。
ブランドアンバサダー化で採用ブランディング強化
退職後も良好な関係を築けているアルムナイは、社外における自社の「ブランドアンバサダー(応援団)」となり得ます。
彼らが自身のSNSや知人との会話で会社の魅力を語ることで、ポジティブな評判が広がり、採用ブランディングの強化に繋がります。
これは、企業が発信する情報よりも信頼性が高いと受け取られる傾向があります。
社内イノベーションの触媒になる
アルムナイが他社で培った新しい知識、スキル、人脈を自社に持ち帰ることで、組織に新たな視点や刺激をもたらし、イノベーションの触媒となることがあります。
既存のやり方に行き詰まりを感じている組織にとって、外部の血を入れることによる化学反応は、大きな成長のきっかけとなり得ます。
リファラル効果で優秀人材が連鎖的に集まる
アルムナイは、自社の魅力を深く理解しているため、そのネットワークから優秀な人材を紹介してくれる「リファラル採用」の効果も期待できます。
「あの会社は良い会社だよ」というアルムナイの一言が、優秀な候補者を引き寄せる強力な引力となり、採用チャネルの拡大に貢献します。
アルムナイ採用の導入企業事例
実際にアルムナイ採用を導入し、成果を上げている企業の事例を見てみましょう。
各社の取り組みから、自社で導入する際のヒントを得ることができます。
トヨタ自動車株式会社

引用:アルムナイ採用 | キャリア採用情報 | 採用情報 | トヨタ自動車株式会社
日本を代表するグローバル企業であるトヨタ自動車は、多様な働き方を推進する一環として、キャリア採用の中でアルムナイの再雇用を積極的に行っています。
一度退職した社員が持つ社外での経験や、客観的な視点を重視しており、組織の活性化や新たな価値創造に繋げることを目的としています。
アクセンチュア株式会社

引用:アクセンチュアの卒業生(アルムナイ)|アクセンチュア株式会社
世界的なコンサルティングファームであるアクセンチュアは、「アクセンチュア・アルムナイ・ネットワーク」というグローバルなプラットフォームを運営しています。
100カ国以上に広がる退職者とのネットワークを活用し、ビジネス機会の創出や再雇用の促進に繋げており、アルムナイ採用の先進事例として知られています。
株式会社ピーアンドジー

引用:Home – P&G Alumni Network
世界最大級の一般消費財メーカーであるP&Gは、古くからアルムナイとの関係を重視しており、そのネットワークは世界中に広がっています。
同社のOB/OGであることは一種のステータスともなっており、アルムナイ同士の繋がりがビジネスに繋がることも少なくありません。
こうした強力なネットワークが、優秀な人材の再獲得やブランド価値の向上に貢献しています。
アルムナイ採用に関してよくある質問
最後に、アルムナイ採用に関して企業担当者から寄せられることの多い質問にお答えします。
アルムナイ採用は本当にコストメリットがあるの?
採用広告費や人材紹介手数料といった直接的な採用コストは削減できる可能性が高いです。
また、育成コストも低く抑えられます。
しかし、一方でアルムナイ・ネットワークの維持・管理コストが発生します。
長期的な視点で、採用コスト削減効果とネットワーク維持コストのバランスを見極める必要があります。
失敗する企業の特徴とは?
失敗する企業には、主に3つの共通点があります。
1つ目は「導入目的が曖昧」なこと。
2つ目は「再雇用のルールが不透明」で、既存社員の不満を招くこと。
3つ目は「既存社員への配慮を怠る」ことです。 これらの点に注意し、丁寧な制度設計とコミュニケーションを心がけることが重要です。
どんな企業に向いているの?
特に、以下の特徴を持つ企業で効果を発揮しやすいと言われています。
- 専門性が高い職種が多い企業: 育成に時間がかかる専門職の即戦力を確保できます。
- 人材の流動性が高い業界の企業: IT業界など、転職が活発な業界では有効な採用チャネルとなります。
- 企業文化が強く、共感を呼ぶ企業: 独自の理念や文化が、アルムナイの帰属意識を高めます。
アルムナイネットワークの管理方法は?
いくつかの方法がありますが、主に以下の3つが挙げられます。
- SNSの活用: FacebookやLinkedInなどで非公開グループを作成し、手軽に始めることができます。
- 専用ツールの導入: アルムナイネットワーク専用のクラウドサービスを利用し、効率的に名簿管理や情報発信を行う方法です。
- 定期的なイベント開催: オンライン・オフラインでの交流会を企画し、直接的なコミュニケーションの場を設けます。
まとめ|アルムナイ採用デメリットを把握して戦略的に活用しよう
本記事では、アルムナイ採用の7つの具体的なデメリットを中心に、その対策やメリット、企業事例を詳しく解説しました。
【アルムナイ採用の7つのデメリット】
- 待遇の逆転現象が既存社員の不満を招く
- 再雇用の条件設定が曖昧でトラブル発生
- 既存社員のモチベーション低下とエンゲージメント悪化
- 離職ハードルが下がり“出戻りループ”が起きやすい
- スキルギャップ発生:前職時代の経験が現行業務に合致しない
- 情報漏洩リスクと競合流出の危険性
- アルムナイネットワーク維持コストの増大
アルムナイ採用は、即戦力の確保やミスマッチの防止といった大きなメリットをもたらす可能性を秘めた、魅力的な採用手法です。
しかし、その一方で、既存社員の感情への配慮や、公平なルール作りを怠ると、組織に深刻なダメージを与えかねない諸刃の剣でもあります。
重要なのは、デメリットから目を背けず、一つひとつのリスクに真摯に向き合い、対策を講じることです。
本記事で紹介したポイントを参考に、自社の状況に合わせた戦略的な制度設計を行い、アルムナイ採用を成功させましょう。